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【乾杯の後に…】 南野 豊著
■本来、動物は一度火に近づいて熱さを知ると、二度と近づかない。幾度も同じリスクを冒して近づくのは人間だけである。
アスファルトの舗道に、木洩れ陽が描いた光と影の模様が揺れている。人々が行き交う街角。休日の雑踏は初夏の明るい陽光に満ちて、幸せそうなカップルや家族連れで溢れていた。
通りに面したリカーストアから小さな男の子が走り出てきて、通行人の足元を掠め、駆けていく。
「走っちゃダメ~~亮ちゃん!」
追いかけるように店の中から女の子の声が聞こえた瞬間、男の子は舗道の段差に躓き、聡(さとし)と彩(あや)の眼の前で転んでしまった。
ガッチャーン…何かが割れたような音が響く。どうやら男の子がぶら下げていた紙袋の中身らしい。男の子が泣き出し、後から走ってきた女の子が追いつく。
「ア~ァ、やっちゃったぁ~」
しゃがんで男の子を助け起こす聡の脇で、女の子が言った。
「だから走っちゃダメって言ったのに。膝、すりむいてない?…よかった」
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