乾杯の後に…

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こんなときの彩には、聡も言うべき言葉が見つからない。 「それにこの調味料の無駄遣い。この出汁醤油、買ったばかりでまだ封も切ってなかったんだよ」 聡にはなぜ彩が腹を立てているのか、理解できなかった。まぁ、それは仕方のない事だったろう。なにしろ彩自身にも自分がイラ立っている理由は解らなかったのだから。そして彩にしても、さすがに自分の言っている文句は筋が通らない…とは解っていたから、それ以上続けることもできなかった。 今から振り返ってみれば彩が腹立たしかったのは、自分が一生懸命作った料理より聡のパスタの方が美味しかったことが原因なのではなかった。もちろん自分が用意周到に準備して演出したパーティなのに聡がアドリブで主役になってしまった事が原因でもない。もしかしたらあまりにさりげなく、そしてうまく、自分のしたい事をサポートしてくれた聡に、理不尽にも嫉妬している自分自身に対して…だったのかも知れない。 聡と離婚して数年。いまならちゃんと「ありがとう」を言えるだろうか。彩は当時を想い出すと、よくそう思う。
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