乾杯の後に…

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聡と彩の場合、ふたりとも「クルマが好き」…という面では一致していた。もっともその中身はかなり違っていたが…。 結婚前、ふたりがそれぞれ自分のクルマを持っていたのは、恵まれた環境だったと言えるだろう。聡が勤務する出版社のボーナスはけして少ない方ではなく、聡はそれを四年ほど貯めて国産スポーツカーのロードスターを購入し、足として使っていた。彩は彩で、親が娘用のクルマとしてドイツ製の小型ハッチバックを買い与えていて、彩が結婚する時はそれを嫁入り道具として持たせるつもりでいた。 けれど結婚したふたりにとって、クルマを二台も保有していたのでは維持費がもったいない。それに広めの1LDKに引っ越した上、二台分の駐車場代まで支出が増えたら、聡と彩の収入では家計がパンクしてしまう。 逆にふたりのクルマを下取りに出して一台にすれば、いままで手の届かなかったクルマを所有できる。当然の合理的選択だった。それぞれの欲しいクルマのカタチは、かなり異なっていたとしても…である。
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