乾杯の後に…

そもそもそんな相思相愛の恋愛期間を経て結婚し、幸せの絶頂にいたはずのふたりの間で、最初に齟齬が生じたのは新婚旅行の時だったと言えるだろう。少なくとも彩の記憶の中では、聡との結婚生活における最初の失望だった。

新婚旅行の地としてふたりが選んだのは、タヒチだった。バリ島やニューカレドニアも選択肢に上がったのだが、どこもみんな彩の学生時代からの友人連中がすでに行ってしまっていた。彼らからウンザリするほど自慢話を聞かされていたから、彩としてはせっかくの新婚旅行の地として仲間内に発表するにはちょっとインパクトが足りなかったのだ。ニューカレドニアよりさらに遠いタヒチでは、予算的にもかなり背伸びすることになる。けれども両家の親達は「一生に一度の記念の旅行なのだから…」と快く援助してくれた。おかげで聡と彩は、仲間内では初めてフランス領ポリネシア諸島に上陸する、羨望のカップルとなった。