乾杯の後に…

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表参道は明治通りから入ると緩やかな上り坂になっている。その坂の中程にあるショッピングモールの前で、学生時代の仲間三人と待ち合わせていた。もはや後ひと息の距離である。けれど渋滞の中、ストップ&ゴーを繰り返す内に2CVは次第にクラッチペダルが重くなり、ギアが入りにくくなっていた。彩が半クラッチを使いすぎて、クラッチプレートが焼き付きかけていたのだ。だがそんな知識も経験もない彩には理解できるはずもない。何しろただでさえ目立つ2CVで、表参道を行き交う人々の衆目の中を運転しなければならないのである。彩も必死だった。 結局2CVは友人達との待ち合わせ場所を目の前にしてギアが入らなくなり、無理やりシフトを押し込もうとしたら悲鳴のような音をたてて、ついに動かなくなった。あげくに微かな白煙までたなびかせて…。 左側の車線を塞いでしまった2CVの後ろは大変な渋滞となった。残された中央寄りの車線に移ろうとするクルマのドライバーが投げかける、非難の視線。強引に中央側の車列に割り込もうとしたクルマと、譲らなかったクルマのドライバー同士が怒鳴り合いを始める始末。
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