乾杯の後に…

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幸いその騒ぎに気づいてくれた友人達と、見かねて手伝ってくれた通行人の男性数人に押してもらい、ようやく路肩に駐車しているクルマの隙間に2CVを停める事はできた。けれどその場から聡に電話した時、彩はすでに半ベソ状態だった。 「クルマが動かなくなっちゃったの…」 「どうしたの? どんな状態?」 「だんだんギアが入らなくなって、最後はギャーンって音がして、煙もちょっと出てたみたい」 「そりゃクラッチが焦げ付いたな。マイッタなぁ…」 「マイッタのはアタシだよ!」 この混雑した表参道のど真ん中。故障した2CVの傍に立って、聡が電車を乗り継いで到着するのを待つ間、行き交う人々が哀れみの視線を自分に向けているようで、彩はできることなら本当に消えてしまいたかった。友達二人が話し相手になってくれていたのがせめてもの救いだったが、何を話したかはまったく覚えていない。
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