乾杯の後に…

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だって、うれしかったんだから…なんて言えないでしょ。こんな時、オンナは嘘をつけるの…覚えておきなさい。心の中でそうつぶやいて、今度は逃れられないように肩を抱きしめながら近づけてきた彼の唇を、彩は受け入れた。不器用に入ってくる舌を口の中で包み込んで、やさしく舌先でくすぐってあげる。 じゃれている。ただそれだけ…。彩にしても、それが言い訳に過ぎないことをよく解っていた。でも断言できるのは、聡を裏切りたかった訳ではないこと。聡は本当に大切なパートナー。だけどいまは目の前の彼との、この雰囲気を壊してしまいたくない。独身で彼氏募集中のフリをして彼を騙してしまったのだから、せめていま一瞬だけは彼を幸せな気分に浸らせてあげたい。そんな紘一に対する気持ちと、聡を大切にしたい気持ちは、彩の中では矛盾していなかった。むしろ同じレベルで心の中に共存できてしまっているようだった。 けれども紘一は、けしてそれ以上の事を彩にしようとはしなかった。不器用だけれど、優しい。そんな所も、彩に好感を抱かせる追い風になったのかも知れない。だから紘一が「また逢ってください」と言った時、つい頷いてしまったのだ。
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