乾杯の後に…

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居酒屋を出た時、これだけ楽しく飲んだのにそのまま帰ってしまうのは惜しかった。もう一杯飲みに行ってもいい気分…彩は素直にそう思えていた。そういえば結婚前は、合コンや飲み会となれば当たり前のように三軒目、四軒目と飲み歩いたものだった。だから彼の「もう一軒…」の言葉に、当然のように「うん、次はどうする? カラオケ?」と答えていた。 今度のカラオケは、カップル用の個室。互いに数曲ずつ歌った後、自然とふたりはキスした。互いに何を期待しているか、何を許容するか、暗黙の内に了解していたかのように…。 どこまでが「浮気」ではなくて、どこからを「浮気」と呼ぶのだろうか…。彩にもよく解らなかった。 けれども彩のために弁護しておくと、けして彩は紘一に恋愛感情を持った訳ではなかった。ただ話すほどに共感できる事柄を発見できて、うれしかった。いい意味での意外性は、心理の中で好感に変換されて印象付けられる。そして共通項が多いと自然と気を許せる範囲も拡がり、接し方もフランクになっていく。だからずっと以前からの仲間のような安心感もあった。そして女性慣れしていないたどたどしさは幼い弟のようで、彩の母性をくすぐった。
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