乾杯の後に…

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たぶんその彩の答えを覚悟してきたのだろう。極端に落胆した様子を見せるでもなく、彩の心の揺れを見極めるように彩の目を見て、そして立ち上がった。一緒に彩も立ち上がる。彼がレジでコーヒー代を払うとき、ほんの少しだけ、彼の手が震えるのが見えた。カフェの外で向き合うと、彼は手を差し出して言った。 「この数か月、ありがとう。…さようなら」 ごく普通の握手で、すべては終わった。 別に喪失感があったわけではない。ただホッとしたような、ちょっと惜しかったような…。またこの退屈な日常に戻るのか…とウンザリしたような…。 もちろん聡は彩にそんな相手がいた事も、そんな心を揺らす出来事があった事も、まったく知らない。もし仮に紘一とその先へ進んでしまったとしても、聡に気付かれるような事は絶対になかったろう。彩は紘一との事を聡に秘密にしておく自信があった。その頃には、聡は彩の日常に対してまったく干渉しなくなっていたから…。
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