乾杯の後に…

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妻のプライバシィに根掘り葉掘り干渉したり、煩く口を挟まない、いい亭主。仲間内ではみんなが聡を誉めた。聡がそれだけ彩の自由を認めていた…と言えば聴こえはいい。けれど実際には、彩が日々何をしているのか…という事に対して、聡は興味を持たなくなっていた…とも言えるだろう。 そんなふたりの結婚生活を、安定していた…と言っていいのだろうか。確かに新婚当初のような波風は立たなくなっていた。けれど聡は外で全精力を注いで働き、彩はその日常に退屈を持て余し…その互いの無関心はやがてふたりの心を引き離していく。どうにもならない程の距離まで…。 「ところでさ…いまは付き合っている人って、いるの?」 聡の横顔を見ながら、彩が尋ねた。 「いないよ。彩と別れた後、ちょっと付き合ってみたコとかもいたんだけど…なんだか面倒臭くなっちゃってね」 聡はまるで、面白い事を訊くね…とでも言いたげに答えた。けれどそれ以上は答えないし、彩のことを尋ね返すこともしない。ふたりで暮らした日々が心の傷となって、いまも立ち直れていない…という事なんだろうか。それとも、もう恋愛や結婚なんてウンザリで、考えたくもない…という事なんだろうか。
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