乾杯の後に…

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用事を終えて帰った彩は、聡がいないことを不思議に思って家の中を探した。けれどたいして広いわけでもないマンションの部屋に人の気配はない。階下のエントランスに降りてみて、ふと駐車場に自分たちのクルマがないことに気付いた。そして部屋に戻って、いつも玄関に置かれているはずの聡のゴルフ・バッグがなくなっているのを見て事態を悟る。今日、突然に誰かに誘われたのなら、彩の携帯へ電話すれば済むことだった。「今日は自分もクルマで出掛けたいのに…」と文句は言ったかも知れないが…。 怒りがこみ上げてきた。いままで不満を持ったことは幾度もあるけれど、電話やメールでまで怒りをぶつけようと思ったことはなかった。でもこの時はどうにも我慢できなかった。 着信履歴から聡の番号を探す手元が震える。しばらく呼び出し音が鳴って、そして聡が出た。 「何やってんのよ!」 少しの沈黙があって、聡が言った。 「いま運転中なんだ。後でこっちからかけるから…」 次の言葉が見つからなかった。彩も聡も黙ったまま時間が流れる。
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