乾杯の後に…

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聡が彩の怒りをやり過ごして、落ち着いてから話そうとしているのは解っていた。いつもなら彩が苛ついた時は、聡が受け流して収まる。けれど今度という今度は、彩はそんな聡を許せなかった。 「後ろめたいから、黙ってでかけたんでしょ!」 たしかに聡は自分でも後ろめたさを自覚していた。だから何も言えなかった。また沈黙の時間が流れる。 聡は黙ったままだが電話は切れていない。いままで付き合ってきて聡の性格はよく解っている。聡はこちらの様子を窺っているのだ。 「戻ってきてちゃんと説明しなさいよ!…卑怯者!」 聡がいつも黙って逃げてばかりいることに対して「卑怯者」…と言ったつもりだった。けれど事情はともかく、その言葉を口にした彩自身がそこまで人を罵ってしまったことに怯み、次の言葉を継げなかった。 それでも聡は黙っていた。ただ聡もそのひと言に怒りを覚えたであろうことは、彩にも容易に想像できた。 「もういい…勝手にして。アタシも勝手にするから」 本当にケンカになったのは、この時が初めてだったかも知れない。
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