乾杯の後に…

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そのまま当分の間の下着の換えや服をボストンバッグに詰め込み、彩は電車で実家に帰った。しばらくマンションへは戻らないつもりだった。 けれども彩の両親は、そんな些細なくだらないことで切った貼ったとケンカするのは、互いに好き合っている証拠だと笑って相手にしてくれなかった。結局、彩の「もう別れるから」…と言う主張は両親に黙殺されたまま、四日間ほどの里帰りで彩は聡と暮らすマンションへ戻ることになる。 もちろん彩自身が納得して帰ったわけではない。聡が実家に来て頭を下げたら帰ることも考えていい…ぐらいには思っていたが、聡に謝る気がなければ別れ話もアリに思えていた。 そんな彩の気持ちが揺らいだのは、すでに実家には自分の居場所はない…と感じたから。 まだ残しておいてくれた自分の部屋を自由に使うことはできた。けれど食事の時も、居間でくつろぐ時も、顔を合わせればいつも父や母に「いつ帰るつもりなんだ」、「聡君はひとりで大丈夫なの」…などと問われる。それは彩にとっては、ここにいる時間は一時的なものだよね…と念を押されているようなものだった。
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