乾杯の後に…

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聡が会社に行っている時間を見計らってマンションに帰っていた彩を、聡は何も訊かずに受け入れた。自分から譲って「悪かった」と謝るかどうかはともかくとして、その週末にでも彩にメールして実家へ迎えに行かなくては…と考えると憂鬱だった聡としては、彩が自分から戻った事をむしろ「助かった」…と思っていたから。 ケンカのことも、実家に戻っていたことも、何事もなかったように振る舞う聡を、以前の彩なら「無責任」とか、「どうして何も訊かないの? これじゃ何も解決しないじゃない」と問い詰めていたかも知れない。けれどその時は、彩にしてみるとそんな聡の態度がむしろありがたかった。それは聡なりの、自分への思い遣りなのかも知れない…そうも思えたし…。 ただこの一件を境に、聡は彩に対して距離を置くようになった。彩との摩擦を避けるために仕方なく…だったが、それは結果として彩との関りを避けていくことに通じていた。 そんな聡に対し、彩も自分から関りを持とうとはしなくなっていく。自分ひとりで空廻りしているようで馬鹿馬鹿しく思えたから…。
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