乾杯の後に…

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その朝、聡は午前六時頃に帰宅した。それまで夏の特集の編集会議、創刊三周年の記念増刊号の入稿、通常の担当ページの企画案提出と、仕事のヤマ場が続いた時期。だからその二か月ほどは連続して深夜帰宅や会社での徹夜の繰り返しとなり、さすがの聡も疲れ果ててボロボロだった。その時も前日から会社で徹夜状態になり、けれど午前中に取材で外部の人と会わなければならないので、朝になってシャワーを浴びて着替えるために一旦マンションへ帰った所だった。 寝室のクローゼットを開け、着替えを出していると、ベッドで目覚めた彩が言った。 「アラアラ、動いているあなたを久し振りに見たような気がするわ」 さすがにムッとした聡が言った。 「俺だって、好きでこんな生活してんじゃないんだよ」 たぶんふたりの結婚生活の中で、聡が声を荒げたのはこの時一回だけだったろう。けれど彩は何も言い返さなかった。その頃にはすでに、ふたりとも言い合いをする気もなくなっていたのかも知れない。
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