乾杯の後に…

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結婚して四年目。考えてみれば、生活だけでなく気持ちまでスレ違っていることはお互いに気付いていたろうし、そのままでは溝が拡がっていくことも解っていたはずだ。関係を修復するチャンスは幾度もあった。けれど敢えて歩み寄らなかったのは、お互いに意地になっていたからかも知れない。今となっては聡も彩も、なぜそんなにムキになっていたのか自分自身でも解らなかった。 「いまもこの近くに住んでるの?」 「ウン、夜、寝に帰るだけの部屋だから、都心に引っ越す…ってテもあるんだけど、この辺りの方が外食したり飲んだりするのに手ごろな店が多いしね…」 「相変わらずの暮らし方…ってとこ?」 「アハ、お蔭さまでね…気楽なひとり暮らしを満喫してるよ」 以前はこの聡独特のシニカルなジョークが嫌で、イラつき、我慢できないこともあった。いま、軽く笑って受け流せるようになったのは、許容できるだけ冷静になれた…ということなのだろうか。それとも、もう真剣に受け止めなくなって、どうでもよくなった…ということなのだろうか。
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