乾杯の後に…

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注文したシェファード・パイを出す時、バーテンダーの女のコはフォークを二本付けてくれていた。こうして一皿のパイをふたりでシェアしながら食べているのを傍から見れば、いまでも仲のいいカップルに見えるかもしれない。 「アタシも最近、ひとり暮らしを始めたんだけどね…」 「フ~ン、よく実家を出る気になったね。あの頃は実家に帰ってばかりいたのに…」 「あなたがいつも夜中まで帰ってこなかったからよ…。あの広い部屋で、ひとりで待つのは嫌だったの…」 「エ~、ヒドイなぁ…。友達を呼んでホームパーティができる部屋じゃなきゃ嫌だ…って言うから、あの広さのマンションにしたんだぜ。背伸びして高い家賃を払いながらさぁ…」 そう、聡にしてみればあの当時の日々は、家賃と生活費のためだけに必死で働いているようなものだった。いくら彩と一緒に過ごす時間がなくなろうが、ふたりの求めていることがスレ違おうが…。そうすることが聡の彩に対する責任の在り方で、すべては彩との結婚生活のため…だったはずなのだが。 ■結婚生活を続けるために一生懸命働くことで、夫婦の溝は拡がっていくものである。
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