乾杯の後に…

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結婚して六年目。聡は三十三歳。人生でいちばん忙しく働かなければならない時期だった。任せられた仕事の全責任を背負って、全力で…。 仕事漬けの日々。けれど何か大きな夢や目標があった訳ではない。来る日も、来る日も、ただひたすら眼の前の仕事を片付けていく。それは、本来は彩とふたりの生活を維持するためだった。平均より少し高めの年収で子どももいなかったから、聡と彩の生活レベルはけして悪い方ではなかった。むしろ一般的な家庭より贅沢ができた方だったろう。けれど一度そこに達してしまうと、やがてそのレベルを維持すること自体が目的と化してくる。友人達は聡と彩をそういう夫婦と認めているから、いまさら彼らの認識を裏切れない。加えてそのレベルの生活をしていれば自然と同じレベルの人々と付き合うことになり、応分の支出が求められるようになる。その意味で、ふたりは自分達の生活レベルに縛られていた。 この頃になると、聡はいくらストレスが重くのしかかっても仕事を辞めることはできないし、彩もけして高額ではなくとも一応の年収を得られるOLを辞めることは考えられなくなっていた。
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