乾杯の後に…

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その代わり、夕食のレストランの選択は彼女に任せた。彼女は喜んで暇さえあればガイドブックを開き、行きたい店や食べたい料理をチェックしていた。けれど最後はいつも幾つかの候補を挙げて聡の好みを訊ねてきた。聡はそんな彼女に女の子らしい一面を見た気がして、なんだかとても新鮮に思えた。彩とも一緒に行く店を相談することはあったけれど、彩に選択を任せても、もう素直に喜ぶことはなくなっていたから…。その頃には聡も彩も、すでに寄り添うことの大切さが解らなくなっていたのかも知れない。 それは二週間の出張取材の最終日のことだった。やっと仕事を終えて見本市会場の近くのビヤホールに寄り、ドイツビール独特の大きなジョッキで乾杯して、ふたりともちょっとした解放感に酔っていた。 「さて、今夜はどうしたい? ちゃんと出張の目的は完遂したんだから、今夜ぐらい羽根を伸ばして楽しんだって会社も文句は言えないだろうし、何でも言っていいよ…」 ちょっと首を傾げて考えていた彼女が、ニッコリと微笑んでうれしそうに言った。 「副編集長、出発前に言ってましたよね。この出張って、私へのご褒美の意味もあるって…」
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