乾杯の後に…

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だがあのフランクフルトの夜以来、聡と彼女の間には笑顔が増え、気遣い合う事が多くなった。相変わらずの深夜残業の時もコーヒーを淹れてくれ、「頑張りましょう。後ちょっとで乗り切れますよ」と明るく声を掛けてくれる彼女。ともすれば疲労で挫けそうになる聡を励まし、共通の目標へ向かって一緒に頑張ってくれる同志。けして寄り添うというのではなく、あくまで一緒の道を歩む相手だけれど…。 それは戦友のような存在でもあり、同時にたった一度だけ、秘密の体験を共有した共犯者のような存在だったのかも知れない。 しかしそのフランクフルトの一夜は、聡にとって予想外の結果をもたらす。ある時、彩が聡の携帯をコッソリと見てしまったのだ。 彩はその時期、なんとなく聡の態度に違和感を覚えていた。 具体的にどこがどうだと説明はできないが、強いて言えば自分に対する接し方が以前と違うような気がしていた。そして理由が解らないままでいる事が、却って妄想を膨らませてしまう。眠れない夜が続いていた。
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