乾杯の後に…

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ホテルのルームで映した写真。聡が自撮りして、彼女が背後のソファに座っているだけで、べつにふたりは抱き合っているわけでもないし、頬を寄せ合っているわけでもない。海外出張に行った同僚と、部屋で打ち合わせしているだけにも見えた。だが彩はその写真に写った聡と彼女の笑顔に、何か引っかかるものを感じてしまったのだ。理由は彩自身にもわからない。けして聡と彼女の関係をハッキリと示すものが写っていたわけではなかったけれど、勘が働いた…とでも言うのだろうか。 脳裏に引っかかってしまったその写真をどうにも拭い去ることができず、彩は眠れない夜を過ごす。そして朝、体調が悪い…と自分の勤務先に電話して有休をとり、聡が起きてくるまで待っていた。 けれど彩にしても、どうしたいという意思があったわけではない。明け方からリビングに座ったまま、彩はずっと迷っていた。自分が抱いた疑いを聡に訊ねたものかどうか…。 「大体において無神経よ。あんな写真をロックもせずにスマホのフォルダに入れておくなんて」…そう思うと苛立つのだが、見てしまった以上は後へ戻れそうもなかった。
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