乾杯の後に…

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両親は最初、実家に戻ってきた彩に「またか…」という顔をしたが、事情を打ち明けるとマンションに戻れとは言わなくなった。その頃もまだ実家の自分の部屋はそのままになっていて、自分の寝る場所がない…ということもなかった。両親はこんな事もあるだろうと思っていたのかも知れない。 一週間ほど経って、聡が会社へ行っている時間帯を見計らって当面の衣服や化粧品を取りに行き、トランクいっぱいに持ち帰ったのを見て、両親も彩がしばらくはマンションに帰るつもりがないことを解ってくれたようだった。 学生時代の友人達に電話して、思い切って聡の浮気のことを話すと、みんな気を遣って長電話に付き合ってくれたし、食事やカラオケに誘ってくれた。彩にしてみれば勇気の要ることだったが、理想的なカップルや幸せな結婚生活を演じる必要がなくなったことは、随分と彩の気持ちを楽にしてくれた。 そんなある日、会社帰りの電車の中で大学時代のサークルの先輩に出逢った。学生の頃、彩が憧れていた男性だった。高校までは女子校だったから、当時はまだ交際の仕方もぎこちなくて恋愛関係へ進みようもなく、彩の淡い想いも彼の卒業と共に消えていったのだが…。
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