乾杯の後に…

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十数年ぶりに逢ったその彼は、すっかりビジネススーツが似合うサラリーマンになっていた。襟元がキュッと締まったボタンダウンのシャツに、タイトに結んだ品のいいネクタイ。そしてピンストライプのダークスーツ。編集職の聡は滅多にスーツを着たり、ネクタイを身に着ける事もなかったし、OLとして勤めていた建設会社にもいないタイプのファッションだったから、彩にはとても新鮮に見えた。 「やあ、久しぶりだね」 そう言ってニッコリ笑った笑顔は、やはり眩しかった。 「よかったら、食事でも一緒にどう?」 憧れていたのは昔の話。だが、そんな先輩に再会して誘われたのがうれしくないはずがない。 先輩に連れられて、渋谷にあるビルの上層階のレストランに入る。彼が選んだワインで乾杯した。窓から見える夜景が綺麗だった。 聡と結婚する前はデートでパブやレストランへよく行ったが、最近は外食と言っても居酒屋やファミレスばかりになっていたから、久しぶりに自分が女性として扱われているようでうれしかった。 「それで、いまはどうしてるの?」 「結婚していたんですけど、ダメでしたね」 「離婚したの?」
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