乾杯の後に…

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「そうそう、夫婦って何年も歳月が経っちゃうと、ホントにカタチばかりになっちゃうんですよね。同じベッドルームに寝てても、お互いに干渉しないのが当たり前になっちゃって、気がついたら他人よりもっと遠い存在になってて…。でも一緒に住んでるパートナーなのに無視してるって、どうかと思いますよ」 結婚生活の中での憤りを、親しい女性の友人以外に話したのは、これが初めてだった。 そして先輩の仕事の話。商社の営業部に勤める先輩の仕事は、聡の編集の仕事より遙かに解りやすい。売り込みに成功した、失敗した、どんな作戦で交渉に挑んだ、どうやって相手の好みを調べて接待した…といった話は面白かった。自分の経理の仕事についても、平気で数字が合っていない清算書類を持ってくる会社の連中について愚痴ると、先輩は笑いながら耳を傾けてくれた。 ふたりでボルドー・ワインを一本空けた。 「もう一杯だけ、飲んでいかない?」 「ウ~ン、まだ時間ありますよね。金曜日で明日は休みだし、一杯だけなら…」 このパターンで、一杯だけで終わる事などまずあり得ない。自分でもよく解っていた。近くのバーラウンジでカクテルを三杯飲んだ。
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