23人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
「アレ、もう終電車、行っちゃったみたいだよ」
「やだ…もうこんな時間? どうしよう…でも飲み過ぎちゃったみたい」
「とりあえず出ようか…」
バーテンを呼んで支払いを済ませると、ふたりとも黙ったまま店を出た。
「ちょっとだけ、寄っていかない?」
顔を上げると、眼の前の路地の奥にホテルと書かれた看板が見えた。
予感がなかったわけではない。だからバーラウンジの店内にいた時から、その日の朝に身に着けた下着を頭の中で反芻していた。
「いいですよ…先輩は気付いてなかったかも知れないけど、学生の時から先輩のこと、好きだったから」
「オレだって結構意識してたんだぜ、君のこと…」
狭い路地に、不自然に煌めく幾つものホテルのネオン。
「最近はあんなラブホテルのことを、レジャーホテルとか、ブティックホテルとか言うらしいね」
「どんな意味なんでしょうね…ちょっと覗いてみたいかも」
照れ隠しの無意味な会話…心の中ではそう思っているのに、声がうわずっている。
「ここでいいかい?」
坂道を登りきったところにある一軒の前で立ち止まり、彼は念を押すように言った。
黙って頷く。
最初のコメントを投稿しよう!