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彩にしても、ドラマチックな仲直りなんて期待していたわけじゃなかった。もちろん周囲のテーブルの客たちの目を気にしたわけでもなかった。ただ自分の結婚生活のステージで、夫に浮気されて一方的に別れを切り出された…そんな惨めな妻にだけはなりたくなかった。自分が悲劇のヒロインになるなんて、まっぴらゴメンだった。
「だからもういいの。聡が言う通り、このままふたりでいても不幸になるだけじゃん。離婚届は実家に郵送して。それで終わりにしよ…」
気が付いたら、意外なほどスラスラと喋っている自分がいた。
ただし、あれが本当に自分の求めていた結論だったのかどうかは、いまも自分で自信は持てない…。
絨毯に、ベッドの跡がクッキリとついていた。ふたりが暮らした跡…。
家具があった場所だけ、絨毯の色が違っている。最初はこんな色だったんだ…。家具が運び出されてガランとした空間になったベッドルームで、彩がそう思って佇んでいると、聡が入ってきて言った。
「意外と長かったんだね」
「何が?」
「ふたりで暮らした時間…さ」
「アハ…アタシもそう思ってた。六年って、結構長かったんだね」
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