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最後に、マンションを管理している不動産会社のオフィスへ行って、部屋のカギを返して家賃と敷金を清算する。その役割は聡が引き受けた。
聡の新居の事は、何も尋ねなかった。彩も聡に告げてあるのは、清算して何割か戻ってきた家賃と礼金を振り込んでもらう銀行口座だけで、先の事は何も話していない。
彩が自分の持っていたカギを聡に渡す時、ほんのちょっとだけ、手が震えた。
けれども自分の荷物を積んだトラックに乗り込んで出発する時、涙がこぼれるかと思ったら、不思議と笑顔で手を振ることができた。自分でも意外なほど、サッパリした気分だった。
むしろ聡の方が微妙に感傷的だったかも知れない。マンションのドアの脇と、エントランスの郵便受けに掲げていた表札のプレートを抜き取り、積み残した荷物やゴミが残ってないか最後に見て廻った時、ふと空虚になった空間に佇み、想い出の糸を手繰っていた。
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