乾杯の後に…

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ふたりが引っ越してきた最初の日の夜、まったく片付かない段ボール箱の山に埋もれて、ふたりで笑いながら紙コップにビールを注いで乾杯したのも、こんな時刻だった。そのビールを近くのコンビニへ買いに行ったのも、ふたり一緒だった。プラスチックのコップにするか、紙コップにするかも、ふたりで相談して決めた。いつの間にこんなに無口になって、そしてふたりで一緒に笑わなくなったのだろう…。 窓の外で、引っ越し業者がトラックのエンジンをかける音がして、急かされるように部屋を出た。 扉にカギをかけてエントランスへ向かって歩き出すと、もう振り返る気にはならなかった。けれど何か虚ろな感覚が自分の中でズシンと響くような気がして、これはかなり長く尾を引くだろうな…という予感がしていた。 ■人生がひとつである以上、前の何かが終わらない限り、次の何かは始まらない。つまり前の何かを終わらせるためには、次の何かを始めなくてはならない…という事。
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