乾杯の後に…

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聡の目がスッと細くなり、口元が微笑んだ。付き合い始めた頃からずっと見ていた、聡の優しい微笑みだった。 「でも、もう無理。無理なのよ」 聡がちょっと首を傾げて、微笑んだまま何かを言いかける。それを遮るように彩は続けた。 「今度、再婚するんだ…。ウン、こんなバツイチのオバサンでもいいって言ってくれる人がいたんだから、感謝しなきゃね」 彩の潤んでいた眼から、ポロポロと涙が零れた。 振り返ってみると、聡と付き合い始めた頃から、聡の前で泣いた時はたいがい仲を持ち直せた。泣いても元に戻せないのは、これが初めてかも知れない。 「ホントはね、ずっと待ってたんだ。聡がもう一度やり直そうって言ってくれるのを…」 聡の表情に戸惑いが浮かび、そして困ったとき特有の哀しげな表情になる。 「でももう無理。何でもタイミングってあるのよ」 一気に言い切って、そして彩は涙を手の甲で拭った。 「もう泣かない」 これが関係修復の最後のチャンスなのだろう。それが解っていながら、今回も聡には「オレが悪かった…行くな」のひと言が思い浮かばなかった。 代わりに口を突いて出たのは、こんな言葉だった。 「今度こそ、幸せになれよ…」
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