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彩が微笑んだ。
「もう、そういう事は考えないことにしたの。たしかに以前は周りから『幸せになって』って言われて、自分でも幸せにならなきゃ…って思ってたけど…」
バッグからコンパクトを取り出して、涙でアイラインが滲んでいないか確認すると、彩はすぐに元の表情に戻った。いや…むしろ何かが吹っ切れて、サッパリしたようにも見えた。
「だって、自分は幸せにならなきゃいけない…って思うことで、むしろ幸せになれないような気がするから」
聡は何と答えていいのか解らなかった。
その代わり、「次の新婚旅行は、タヒチはやめておけよ」…などと軽口が思い浮かんだが、さすがに口に出すのは思い留まった。
「じゃあアタシ、もう行くから…」
言うべき言葉に迷っている聡を後に、彩は呆気ないほど簡単に席を立ち、去っていった。その白いワンピースの背中は、入口近くで一度だけ立ち止まりかけたが、もう聡の方を振り返ることはなかった。
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