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聡の口から溜息が漏れた。別れてからすでに四年が経っている。寂しさや哀しさがあるわけではなかったが、やはり何か微かな感傷のようなものは残っていた。けれど一方では、やっと心の奥につかえていた何かを精算し終えたような気がして、妙な清々しさを感じている自分もいた。
…と、そんな聡の前にいきなり、満杯にビールを注がれたジョッキがふたつ置かれた。
「どうしたの?」
ジョッキを置いたバーテンの女のコに訊ねる。
「乾杯…してもらえませんか? アタシのビールも用意したんで…」
「何で…また?」
「こんな時に…ですよね」
バーテンの女のコはニッコリ笑って続けた。
「でも、アタシの方は一歩、前進したみたい」
聡が首を傾げていると、バーテンの女のコは自分のビールのジョッキを聡のジョッキに向かって掲げながら言った。
「さっき出口のところで、奥さんが帰りがけに言ってくれたんです。『聡を頼みます』…って。やっぱり女同士だと、勘で解っちゃうんでしょうね」
冗談かとも思ったが、彼女の表情を見るとふざけているわけでもなさそうだった。
「聡さん、ぜんぜん気付いてくれないけど、なかなかいいチャンスだと思うけどなぁ…」
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