乾杯の後に…

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けれどそれは、彩自身が望んで到達した結末ではなかった。いまでも彩はそう想っている。ただあの頃は、もうそれしか道はないと想えた。それが正しかったのかどうかは、いまも解らないが…。 一方の聡にしても同じで、当初は幾度も思い直して元に戻そうと努力してみた。けれどもそうしてなんとか一緒に歩んでいこうと努めてみても、繰り返し衝突し、互いの不満が噴出してしまうと、なんだか無駄な努力に思えてくる。結局、そんな日々が続くと先が見えなくなり、別離は仕方のない選択と想えるようになってしまった。お互いにそれ以上、相手を傷つけてしまわないためにも…。 彩にしても、聡にしても、けして軽々しい気持ちで結婚して夫婦になり、離婚してまた他人に戻った訳ではない。傍から見ればよくある物語だが、それなりに惹かれあって恋をし、互いに幸せな日々を夢見て結婚しているのだ。 けれどそうして家族として一緒に時を過ごしてみると、今更ながらにふたりが他人同士であった事を思い知ることになる。 それまで、相手を好きであればこそ我慢できた些細な不満や行き違いも、気になり始めると日常のフラストレーションとなって鬱積し、心を圧迫し始める。
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