乾杯の後に…

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聡と彩が結婚式を挙げた年の年末には、彩の実家からお歳暮が届いた…と言って聡の母親が慌てて聡に電話してきた。聡の実家では父親が勤務する会社の上司に中元や歳暮を贈る事はあっても、親類にその類を贈ったことは一度もなかったのだから…。 「あちらはそういう家なんだよ」…そう母親に言いながら、正直言って聡自身も少々面倒臭く感じていたことも確かだった。 毎年、時期が来ると贈答品選びや挨拶状書きに追われている彩に、ある時、聡は言ったことがある。「子どもは子どもで独立した世帯なんだから、実家のやってることをそのままやらなくてもいいんじゃないか?」…と。 しかし彩には理解できなかったようだ。彩の手本である姉は、結婚相手が実家の問屋を手伝い、やがては婿として父親の跡を継ぐ事になっている。だから実家のやり方を忠実に受け継いでいたし、他に参考となる家庭が身近になかった彩には、自分の実家以外の付き合い方を理解するのは難しかったのだろう。
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