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けれども彩の実家の家族が、自分たちの習慣や家族関係を聡に押し付けてきたわけではない。むしろ逆で、聡に対して一生懸命気を遣ってくれ、できる限りの事をしてあげようと気配りする、人の良い人達なのだ。聡もそれがあくまで「好意」によるものだと解るだけに拒むこともできないし、いたずらに疎遠にしてしまうこともできない。
毎月一度、「今度の日曜日、何か予定入ってる? お父さんがウチで食事でも…って言ってるんだけど」…と決まったように言う彩に、気が重くなりながらも「ウン、いいよ」と答えてしまうのは、聡も人の好意を無碍に断れない、人の良い人間だったから…なのだが。
そうして月に一度、日曜の午後。聡は彩の実家で修行僧のような時間を過ごしていた。何があっても、顔には曖昧な笑みを浮かべて…。
彩はアウトドアが苦手だった。
彩の実家は大商店…と言うほどではないが、昔から従業員も数人いて、一応父親で三代目になる歴史のある問屋だった。だから彩も「深窓の令嬢」…と言うほどでもなかったが、そこそこのお嬢様として育った。
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