乾杯の後に…

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人はなぜ便利で快適な日常を抜け出し、不便で面倒な環境を求めるのだろうか。当然彩には理解できない事だったが、聡とてその「なぜ」を説明できる訳ではない。でも彩も最初は「聡と一緒の時間を楽しもう」とポジティブに考え、「聡が好きな事だから」と受け入れていた。 「トイレは大丈夫? すぐに作るからちょっと我慢しててね」 「作る…? トイレって、作るもんなの?」 そもそも聡と付き合ってまだ間がない彩にとって、自分の排泄する場を聡に作ってもらう…ということ自体がショックだった。けれど湖の対岸にある公衆トイレまでは歩いて三十分ぐらいかかると言う。まさか「いいよ、ナシで済ませるから」とも言えないから、素直に「ありがとう」とは言ったものの、複雑な気持ちだった。 人間の排泄物は、自然環境の中でも簡単には生分解しない。だから自然を汚さないために最低限守るべきマナー。そう言われてしまえば彩だって納得せざるを得ないのだが…。
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