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話す度に拗れることにウンザリしてくると、その苛立ちを押し殺すようになり、感情を持たないようにすることが、平穏に日常を過ごす知恵となってくる。
やがて会話が途中で立ち消えるようになり、互いに無表情で過ごすようになると、心は冷えた家庭から離れ、外へ向かい始める。
どちらが先によそ見をしたか、どちらが先に裏切ったのか、それは問題ではないだろう。互いに相手の期待を裏切ることが平気になっていった時点で、すべては起こるべくして起きていくものなのだから…。
そうして一緒にいる事の意味を見失ってなお、その虚しさを誤魔化し続けるには、それなりの理由が必要となる。それは多くの場合、収入や生活の依存であったり、子どもの存在や、あるいは実家の世間体だったりするのだが、傍から見れば無理やり取って付けたような言い訳であっても、一緒にいるメリットを不満が超えてしまわない限り、諦めて一緒の生活を続ける事はできる。
けれども聡と彩には、そうまでして一緒の生活を続けなければならない理由はなかった。
結局、ふたりは離婚に同意し、ふたりで離婚届けに捺印して、婚姻生活を終えることになる。
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