乾杯の後に…

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トイレを中断せざるを得なかった彩のために、とりあえず聡は湖の対岸の公衆トイレへクルマを走らせてくれた。キャンプサイトに戻るとキャンプ仲間達が別の場所に新しい穴を掘ってトイレを作り直してくれていたけれど、彩にしてみればあまりにショックだったのだろう、二度と近寄ろうとはしなかった。 公衆トイレまでは歩くと三十分。クルマでも停めているパーキングから湖畔の周遊道路を走って十分かかるが、もはやどんなに我慢してもそこまで行くしかなかった。そんな彩に、聡が黙ってクルマのキーを預けてくれたのは、彩にとっては唯一の救いだったかも知れない。 あの時、彩が「もう帰る」と言ってしまうのをかろうじて思い留まったのは、まだ付き合い始めたばかりの聡への遠慮もあって、キャンプ仲間に対する聡のメンツを潰しては申し訳ない…との想いがあったからだった。
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