乾杯の後に…

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いま思い返してみればなぜあの時、タオルにくるまったままテントに戻って着替えてしまわなかったのだろうか。それは聡が水着の彩を眩しそうに見つめてくれていたから。彩が濡れた身体を焚火で乾かしている間も、湖畔の水際を散歩している間も、きっと聡は水着の彩からこぼれるような色気に惹き付けられ、そしてその大胆に露出した肌の触感を欲してくれていたから。 だが彩は、もう二度とキャンプには付き合わない…そう誓っていた。ホテルであれば、シャワーだけでバスタブもないような安宿でも我慢はできる。百歩譲ってバス・トイレが共同の民宿でも、仕方ないと諦めるかも知れない。けれどもキャンプだけは、もう二度とゴメンだった。そして聡もそんな彩を察して、もうキャンプに誘うことはなかった。 聡はクラシックの室内楽が苦手だった。 結婚して少し経った頃、彩から「聡は音楽好き」と聞かされていた彩の叔母が、気を利かせてコンサートのチケットをプレゼントしてくれた。 「どうせ最近は、ふたりで外食やデートもしてないんでしょ」
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