乾杯の後に…

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一曲目はスメタナのモルダウ。案の定、この店はコンサートホールとしてもかなり考えて作られたようで、弦の艶やかな音色をよく響かせる。ちょっとメランコリックな第一ヴァイオリンの奏でる旋律から、中盤の勇壮な盛り上がりへ。たった弦楽器四台の構成とは思えないほど迫力があった。 すでにテーブルにはコーヒーのデミタスカップが運ばれていたが、聡も彩もせっかく追加オーダーしたボトル・ワインを残してしまうのが惜しくて飲み続けていた。 二曲目はバッハのフーガ。前のモルダウが勇壮だっただけに、シンプルな音の構成はとても耳に優しい。この日のセットリストを組んだカルテットのメンバーにしてみれば、後半の誰もが知っているポピュラー・ミュージック系の曲目に移る前に、ちょっと静かな曲で間を置きたかったのだろう。しばらく繊細な音色が織り成す柔らかな旋律が続く。このホールはステージの音が聴く人々を包み込むように響き、弦の音色が心地いい。 そして、その一瞬はやって来てしまった。
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