乾杯の後に…

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最後の弦の音が、遠く尾を引くように消えていく。弦の響きが彼方へと去って、一呼吸の静寂の後に拍手喝采となるはずだった。…だったのだが、その静寂の一瞬に響き渡ったのは特大のイビキ。その主は聡である。まさに眠りに落ちた瞬間…という表現がピッタリのタイミングだった。 前日まで深夜残業、深夜帰宅を繰り返していて、その週の平均睡眠時間は一日三~四時間。そこへ彩とふたりでワインのボトルを一本空け、二本目もほとんど飲み干してしまっていた。慌てた店員が飛んできて起こしてくれなかったら、コンサートが終わるまで居眠りし続けていたかも知れない。それもホール中に響き渡るぐらいの大音量のイビキとともに…。 ヘビーメタルの激しいギターやハードなリズムセクションばかりを聴いている聡にとって、対律法で奏でる優雅な弦楽曲は子守歌に近かったのかも知れない。
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