乾杯の後に…

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穴があったら入りたい…彩はまさしくそんな思いだった。できればそのまま席を立って帰ってしまいたかった。けれどもここは叔母の知り合いの店。コンサートの最中にイビキをかいて眠ってしまい、あげくに途中で退席してしまったら、演奏者に対しても、店に対しても、叔母が顔向けできなくなる…と思えた。だからかろうじてその席に留まったが、彩にしてみればその先コンサートが終わってその店を出るまでの間、針の筵に座らされているようなものだったろう。 けれども彩とて聡を非難できたものではなかった。実は彩もその一瞬はウトウトし始めていて、聡が居眠りを始めた事に気付いていなかったのだから…。 たいがいのカップルは、互いに恋し始めた最初の頃は相手を気遣い、相手に合わせようと歩み寄る。けれど相手に合わせようとすると、多くの場合は自分が無理をすることになる。それでも、多少は無理をしてでも相手に合わせて行こうとしている内は、まだ互いに相手のことが好きで、互いに関係を保とうと努力していると言えるだろう。
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