乾杯の後に…

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彩と聡にとってこの時期に次々と表出した互いの性格や嗜好、そして生活のリズムの不一致は、自分さえ我慢すれば、あるいは自分さえ妥協すれば乗り越えられることに想えていた。だからふたりにとっては大した問題でもなかったのだろう。この頃の聡と彩は、まだ小さな対立があっても相変わらず譲り合い、最終的に歩み寄っていた。…という事は、当時のふたりはまだ互いに恋愛状態だった…と言えるかも知れない。 けれども人間関係のフラストレーションは鬱積していくもの。ある時期からは、相手に譲ってばかりでは不満が募るようになり、そして自分を主張し始めると衝突を繰り返すようになる。その衝突が互いの調整の範囲を超えてしまった場合は、通常はその原因となった対立している要素を諦めて、妥協するしか道はなくなる。さもなければ関係が崩壊してしまうからだ。 そうして「諦め」と「妥協」がふたりの関係を支配するようになると、やがて衝突に至る対立をあらかじめ避けるようになる。そうする事で互いの平穏が保たれるなら、それでいい…と悟ってしまったかのように…。
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