乾杯の後に…

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聡はもう最初のビールを飲み干してしまい、次の一杯を注文しようとバーテンダーの女のコを呼び止めている。 先程、駅前で待ち合わせた時の聡は以前と変わらないように思えたが、パブのカウンターに並んで座ってみると、その横顔はやつれて見えた。まだ三十歳代のはずなのに髪にはもう白髪が混じり始めていて、結婚していた頃よりかなり老けて見える。 「どう?…仕事は相変わらず忙しいの? 痩せたんじゃない?」 彩はそう尋ねながら、まるで母親のように語りかけている自分に呆れていた。離婚後も必要に応じてメールのやり取りはしていたのだが、こうして久しぶりに逢うと何を話していいのか解らない。別々に住んで、それまでと違う生活を送っているのだから、話したいことや聞きたいことはヤマほどあるはずなのに…。 「そりゃ~忙しいさ…。雑誌が売れてるのはいいんだけど、会社は人員を増やしてくれないからね」 相変わらず自分ひとりで仕事を抱え込んで、深夜まで帰れない生活を繰り返しているのだろう。 「ちゃんと食べてるの?」
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