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扉を開けると店内は思ったより混んでいて、すでにテーブル席は満席だった。けれどカウンター席はまだガラガラだったので、空いていた席に座る。
「いらっしゃいませ」
バーテンダーの女のコが声をかける。
「今日は早いんですね」
「ウン、久々の休みでね…」
聡はそう言いながら、隣に座った彩が彼女を見ているのに気付いて続けた。
「あっ…こちら、バイトの美保ちゃん、こちらは以前の妻で彩…」
この類の店のカウンターでは、常連が顔見知りのスタッフに連れを紹介する事は珍しくない。けれど別れた妻を紹介するケースは、さすがに稀なのだろう。だからなのかバーテンダーの女のコは一瞬、面食らったような顔をしたが、すぐに微笑んで彩に言った。
「ああ…奥様でらしたんですね。いらっしゃいませ」
「以前の…ね。前の…旦那がお世話になっているようで」
カウンターを挟んで三人が声を上げて笑った。
「何をお飲みになりますか?」
「アタシはドラフトの黒」
「ボクはいつものヤツ」
ビールをなみなみと注がれたジョッキが、眼の前に置かれる。
「乾杯…って言うのも、なんかおかしいかな」
「さあ、こんな時って、どうするんでしょうね」
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