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「じゃあ、お前さんは“何”に復讐するつもりなんだ?」
ようやくその質問が来た。待ってました、とばかりに僕はにやりと笑ってみせる。
「何だと思う?当ててみてくれよ。もうすぐ僕はその目的のために溶けて消えてしまうんだ。それまでの時間、君との有意義な会話を楽しませてくれ」
今日は良い天気だ。ただし平日の昼間ということもあって、公園に人影は多くない。杖をついた老人が、ゆったりとした足取りで前を横切っていくのが見える。ベビーカーを押してきた女性が、原っぱにピクニックシートを敷いている。その女性の腕を、小さな女の子が何か言いたげに引っ張っている。父親らしき男性が、そんな女の子を抱き上げる。
ベンチには眠そうな顔をした女性が欠伸をしながらぼんやりと座り、眼鏡をかけ直している。
学校をサボっているらしい派手な髪の女子高校生は、木陰でスマホを弄りながら何やら大きな声でお喋りをしている。――全員、僕の方になんか眼もくれない。時々ベンチに座っている黒猫を見て“可愛い!”と声を上げることがあるくらいだ。
「おいおい、そこでクイズになるのかい」
黒猫は眉間の皺を深くした。分かりづらいと言われることも多いが、犬や猫はかなり表情でモノを語る生き物だ。辛い時は辛い顔をするし、リラックスしている時はとろけた顔をしている。だから僕は彼等のことが大好きだった。人間と違って嘘らしい嘘なんかつかないというのも好感度が高いというものである。
「ヒントがちょっと少なすぎやしないか。俺様に今わかってるのは、お前さんの復讐対象が“人間じゃなさそう”ってことくらいだぜ?それと……復讐に十年もかかったってことか。それを成し遂げるのに、それだけの時間をかけないといけなかったっつーことだよな。で、お前さんはそのために魂の殆どを費やしちまってるので、こなにも存在感が希薄になってる、と。……思ったんだけどよ、この状態じゃお前さん、目的を達成してもあの世には行けないんじゃないか?きっと力尽きちまうぜ」
「多分ね。でも僕の目的は、あの世に行くことではないからいいのさ」
「復讐が果たされたら、それでもう自分はどうなってもいいって?」
「と、思っていたんだけど。段々と、自分がやりたいことは復讐でもないのではないかと思い始めてきたことさ。何故なら僕の行為で、世界は大きく塗り替わることになる。それ、に皆が頼ることはなくなる。頼ることができなくなり、大混乱に陥る。僕を苦しめた最大の元凶が僕の力でなくなり、多くの人がそれに苦しめられることもなくなるんだ。いわばこれは……そう、革命というものだ!」
革命。自分で言ってみてなんだが、これほどしっくり来る言葉もない。両手を広げ、太陽の光を浴びながらうっとりと眼を閉じる。
もうすぐ。この世界に、忌々しい“アレ”はなくなるのだ。
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