フレネミー

2/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
いつくもの目が俺を見ている。 カードを手の中に握ると反対側の手で指を鳴らした。ゆっくり開く。そこに握ったはずのカードはない。 少し後方で見ていた男の子を示すと、トントンと胸ポケットを叩く。 周囲につつかれて男の子が自分の胸ポケットを確認すると、周りで華やかな声が上がった。 「えぇ!さっきまで手の中にあったのにどーやったの!?」 七歳ぐらいだろうか。目を見開いて尋ねてくるその子にニッコリ笑う。 時間が知りたくて、頭上の時計台に目線を移した。その時目に入ったのは先程の老紳士。壁際のダイヤル表を熱心に眺めている。 そしてそれを見つめる異質な視線。 (気のせいだといいけど···) 「おにーちゃん、次は次は!」 その言葉に意識が引き戻された。 俺は注目を集めるため軽く手を叩くとシルクハットを掲げた。 「じゃあ次は皆に甘いものをあげよう」 上下左右くるくる見せて中が空なことを示す。白いハンカチを上に被せると、そのままワン、ツー、スリーでシルクハットを軽く上に投げた。俺の手に戻って来たとき、そこには確かな質量を感じる。 一番手前の小さな女の子の前に持っていく。 「僕も欲しい!」 俺を囲むように緩やかな楕円になっていた子供たちの輪が、途端にギュッと丸くお菓子めがけて集まる。子供がおしくらまんじゅうしてるような姿に微笑みが漏れた。 その時視界の端で起こる、不自然な動き。 (やっぱりな。覚えた覚えた。) 俺は立ち上がる。 「全部あげるよ。皆で分けるんだよ」 俺は言うや否やキャンディでいっぱいの帽子ごと女の子に渡し、すぐに走り出した。         「そこのミスター!無くし物ですよね?」 突然声をかけた来た俺とその内容に紳士は驚いたような顔をした。 小走りで彼の元に駆け寄ると、紳士は俺を見て言う。 「貴方はあそこで子供たちに囲まれてた···」 「駆け出しかつ売れないマジシャン。仕事が欲しいのと小銭稼ぎに人が多いところでパフォーマンスしてたんだけどね。」 子供達だけが沢山集まっちゃった、と続け困ったように苦笑する。 子供は好きだ。でも彼らはお金を投げ入れてはくれない。 それよりも、と俺は話を変える。 警戒されてないのならば早く話を進めたかった。 「ミスター。なんか盗まれただろ?」 「見ていたのですか?え、あの距離で?」 慌てて子供たちが集まっている辺りに目を向ける紳士。確かにある程度遠いが今はそんなこと問題ではなかった。 「見てた見てた。俺はすごく目が良いから。人相も覚えたから今なら間に合うよ!」 歯が見えるような大きな笑顔で喋る。 安心感を与えたい一心だ。 なお不思議そうな顔をしている紳士の袖を引っ張ると、反対の手で前を指差す。 「まあ良いからさ、付いてきて!今なら取り返せるよ!」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!