もっと捕らえて.裏 4

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もっと捕らえて.裏 4

* 「適当にご飯作るんで、緋音さんシャワー浴びてきて下さい」 「いや・・・後でいい・・・」 家についてコートを脱ぐと、珀英は着ているセーターの袖(そで)をまくってキッチンに立ちながら言った。 珀英は自分のコートと一緒にオレのコートもクローゼットにしまってくれて、オレはそれをダイニングの椅子に座って、珀英がキッチンに戻ってくるのを待った。 「ちょっと時間かかりますよ」 「大丈夫・・・」 珀英はオレの言葉に戸惑いながらも、冷蔵庫から食材を取り出して、オレのために夕飯を作り始める。 オレはその後ろ姿を見ながら、何だか幸せな気分になっていた。 明日は珀英の誕生日だけど、明日は仕事だから今日お祝いの意味を込めて食事に誘ったのに、オレのせいで全然ダメになって。 それでも珀英は責めたりせずに、こうしてオレのためにご飯を作ってくれている。 そして、それが嬉しいと思っている、オレがいる。 珀英のために何かしてあげたいと思ってても、何だかうまくいかなくて、結局こうして珀英がオレのために色々してくれて。 申し訳ないけど、嬉しい。 珀英がオレのためにしてくれることは、全部嬉しい。 でもそんなこと言えない。 恥ずかしいし、悔しいし、言えないけど。 ちゃんと感謝してる。 ちゃんと珀英の愛情を感じている。 そして、ちゃんと珀英に愛情を感じている。 本当はちゃんと言ったほうがいいんだろうけど。 恥ずかしくて・・・言えなくて・・・ごめん・・・。 そんなことを考えながら、テーブルに突っ伏して腕を枕にしながら、珀英の動きを追っていたら、不意に珀英が振り向いた。 あまりに急だったから、びっくりして思わず上体を起こすと、珀英がにこにこ微笑みながら、 「簡単なものですけど、どうぞ」 と言って、できた料理を乗せたお皿をテーブルに置く。 トマトとクリームチーズのカプレーゼと、生ハムと薄く切ったアボカドを乗せたバケット、鶏肉といんげんを味噌マヨで和えたのが、さっと並べられて、冷蔵庫から冷えた白ワインを出してきて、珀英はグラスを持ってきて、オレの向かいに座った。 この短時間で余り物で3品作れる珀英の料理スキルに驚いていると、珀英はワインのコルクを抜きながら、 「ちょっと待たせちゃってすみません」 と申し訳なさそうに言う。 「いや・・・全然・・・」 本当にたいして待った感覚がないから、オレは素直にそう言った。 珀英は嬉しそうにグラスにワインを静かに注ぐと、そっとオレの前にグラスを置いた。 オレはそのグラスを持ち上げて。 珀英も自分のグラスにワインを注いで、同じように持ち上げた。 「お疲れ様です」 珀英は微笑みながら、そう言う。 いつもだったら『お疲れ様』って返すけど、今日は、違うと思った。 「・・・・・・一日早いけど、誕生日おめでとう」 「あ、はい、有難うございます」 少し照れながらも珀英はそう言って、嬉しそうに笑う。 この笑顔が見たくてレストラン予約してたのに・・・でも今見れたから、まあいいのかな・・・。 その後は、いつものように珀英の作ったご飯を食べながら、今日あった話しをしながら、珀英の笑顔を見ながらワインを飲んで。 他愛のないいつものことなのに、それが嬉しくて、楽しくて。 珀英がオレの傍(かたわら)にいてくれることが、嬉しい。 軽い夕飯を食べながら、二人でワインを一本空けた頃には、オレはほろ酔い加減で、ふわふわと気持ち良くなっていた。 いつもはこんな量じゃ酔わないのに、今日は気分がいいせいか酔いが回るのが早い。 だからいつもより少しだけ素直になれる。 オレは食べ終わった食器を洗っている珀英に気づかれないように、リビンクのソファに放り投げた自分のカバンから、そっと小箱を取り出して、手で持ったまま隠した状態で、座り直した。 食器を洗い終えた珀英は、満足そうに振り返ると、再びオレの前の椅子に座って、グラスに残っているワインを一口飲んだ。 少し伏せられた目や、通った鼻筋とか、柔らかい口唇とか、そういうのをじーーっと見つめる。 あまりに見つめられて、珀英が少し居心地が悪そうに眉根を寄せて、オレを見たり目を反らしたりして、戸惑っている。 いつもとは逆になっていて、なんだか可笑(おか)しかった。 こうやって見つめられている相手の反応を見てるのって、結構楽しい。 だから珀英はいつもオレのこと、ずっと、ずっと見てるんだな。
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