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もっと捕らえて.裏 6
こいつ・・・本当にオレのこと好きだよな・・・。
いつも、いつも、オレが近づくと緊張して、でも嬉しそうで、犬が尻尾振ってる感じそのまま。
おまけに酷く欲情している。
絶対に、もうオレを犯すことしか考えてない。
珀英の反応が面白くて、楽しくて、思わず喉の奥で笑ってしまった。
珀英の耳たぶにそっと触れる。
少し冷たい、思ったより薄い耳たぶを見て、ピアスを入れようとしたが、他人のは入れづらくてなかなか入らない。
何度かチャレンジして失敗しているのを見かねた珀英が、不意にオレの腰を掴んで引き寄せた。
「オレの上に座ったほうがやりやすいと思いますよ」
「え・・・?!」
戸惑っているオレにお構いなしで、珀英はオレの体を引き寄せて、無理やり珀英に跨(また)がる形で上に座らせる。
この態勢のほうが、体が密着しすぎて、珀英の匂いとか体温とか、呼吸とか色々感じて全然集中できないのに。
珀英の嬉しそうな、犬っころのような打算的な笑顔を見ていたら、むかつきながらも、そんなこと言えず。
オレは仕方なくその態勢のまま、目の前にある珀英の耳に顔を近づけて、ピアスを入れることに専念した。
珀英の言う通り、上に座ったことで体勢が安定したせいか、今度はピアスは素直に耳たぶの穴に入っていき、オレはほっと一息ついてから、キャッチに針をはめる。
もう片方もすんなり入ったので、同じように付けてあげて、オレは体を起こした。
「ピアス、入ったぞ」
珀英の香水と体臭の混じった、嗅ぎなれた匂いが鼻腔(びくう)を通って脳に浸透してきて。
更に酒が回ったような感じで、少しくらくらする。
匂いに犯される。
腰が、お腹の奥が、肺が、全身が痺れる感覚。
それを悟られたくなくて、オレは珀英の上に座ったまま、顔を背けた。
頬が熱い。
それどころか、胸の奥も、お腹も、そのもっと奥も。
脳味噌も呼吸も、腰も尾骨も背中も頸(うなじ)も、全部、全部が熱い。
熱いだけじゃなくて、後ろのほうが、ズクズクと、疼(うず)いてくる。
こんな風に密着したせいだ・・・珀英の匂いを、熱を感じたせいだ。
オレをこんな風にしてしまう、匂いが、熱が、憎たらしい。
「はい・・・ありがとうございます」
「うん・・・」
「緋音さんとお揃いだから嬉しいです」
「ふぇ・・・?!」
お揃いって・・・バレてた?!
びっくりして思わず珀英を見ると、珀英は嬉しそうに、心底嬉しそうに目を細めて、揺蕩(たゆた)うように笑っている。
「なんで・・・お揃いって・・・」
思わず口走ると、珀英は少し意地悪な口調で言った。
「そりゃあ、貴方の持ち物くらい全部覚えてますよ。靴も、カバンも服も。アクセサリーだって、素材や色や形も、全部ね」
「・・・っっ・・・お前のそういうところ、ほんと気持ち悪い」
「ひどいな〜」
珀英はオレの憎まれ口に目を丸くしながら、そう言うと跨(またが)って座ったままの、オレの腰と背中を更に強く抱き寄せると、肩に顔を埋(うず)めてきた。
今までされたことのない、甘えるような行動に少し戸惑っていると、珀英はオレの腰を抱いていた大きな手を背中に回して、太くて逞しい腕で強く、ぎゅーーーーっと抱きしめてきた。
「はくえい・・・苦しい・・・」
「ありがとうございます。本当に嬉しい」
「ああ・・・わかった・・・」
くぐもった珀英の声が、肩から首を伝って鼓膜を刺激する。
限界まで体が疼いている。
抱かれたくて、挿入れて欲しくて、醜い欲望が、ズクズクと充満していく。
「これ・・・緋音さんがつけてくれたから、嬉しいです。一生外さないです」
「そういうとこ・・・まじで気持ち悪い・・・」
こんなにも酷く欲情しているのを珀英に悟られたくなくて、オレはいつものように憎まれ口を叩いてしまう。
オレの肩に顔を埋めたまま、珀英がくすくす笑っている。
「そういうとこ・・・ほんと好き・・・」
小さな消えそうな声で、珀英が言う。
背中を抱きしめる腕に、更に力がこもって、少し呼吸が苦しい。
いつもならもっと、オレの体も心も、絡めて括(くく)りあげて、がんじ搦(がら)めにするくせに。
何で・・・こんな風に、淋しそうにしがみついてくる?
オレは、そっと力を込めて珀英の肩を押す。
珀英は素直に体を離す。
珀英の顔を両手で包んで上を向かせる。
相変わらず微笑んだままの珀英の顔が見えた。
嘘くさい。
笑顔。
さっきまで心底嬉しそうな笑顔だったのに、今は貼り付けたような笑顔。
少し不安そうな珀英の顔を両手で挟(はさ)み込んだまま、オレは正面から珀英の漆黒の瞳を見つめる。
その漆黒の瞳を、舐めたいと、思った。
「ここに・・・」
「え・・・?」
「オレの隣に、いろ」
「緋音さん・・・」
「離れるな」
オレは微笑みながら、軽く溜息をつくと、少しずつ顔を近づける。
お互いに目は閉じないで、少しだけ瞳を伏せた状態で、口唇が触れるのを待つ。
たまにこうして言葉で、態度で、オレの想いを伝えてあげないとダメになるんだよな。
珀英の安心したような瞳の色に、ほっと胸を撫で下ろす。
オレの、恋人(いぬ)。
珀英の少し厚い柔らかい口唇に、そっとキスを。
珀英を安心させるために、口唇を重ねて、少し離して、舌で口唇を舐めて、また重ねる。
熱い、熱い口唇を感じながら。
オレは、珀英の目の縁(ふち)に滲(にじ)んでいた涙を、指先でそっと拭(ぬぐ)った。
Fin
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