女優のように

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女優のように

私は女優。一歩外へ出たら私と違うもうひとりの私を私は演じる。 築数十年の今に潰れてもおかしくないアンモニア臭漂う安アパートの玄関の鍵をかけ、これもいつ崩れ落ちてもおかしくない階段を降りると私はもうひとりの私を演じる。身につけたものは全て高級ブランド品。イヤリング、バッグに腕時計もハイヒール、果てはストッキングまで全て高級ブランド品で身をかためた私。誰があんな安アパートの住人だと思うだろうか。誰も想像できないことだろう。ない金を無理してブランド品を買い漁りその上、二週に一度は美容院で手入れした髪を朝の爽やかな風になびかせ私は駅までの道を颯爽と歩く。化粧品だって全て一流品。行き交う同性も異性もみな私に釘付け。どう、まるで女優でしょう。言い寄る男も数多。どれもパッとしない。私が求めているのはあなたたちのような安い男じゃないの。有名大学を出て一流企業に勤めるエリートしか興味がないの悪いけれど。安い男は願い下げ。見ないでもらいたいわ。 人は哀しくて可愛いものでございます。どれほど飾ってみたところで中身の値打ちが上がるものではございません。中卒のパート勤めが悪いとは申しません。が憐れに思えてならないのでございます。
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