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ⅩⅤ 好きだった
「●」
どこからか、音がする。音の方に施設の人間はみんな向かっているのか、別れてから意外と誰も来ない。
私の脆弱な体はもう動けないが、ひなげしも動けないみたいだ。
透明な目になってしまったひなげしは、頭の中もなにも考えられていない。
いつだって弱くて思考を停止する。それも幸せなことかもしれないけれど。
遠くの激しかった音が止んだ。上だからガーベラとすみれのほうだ。どうなったんだろう。ジャスミンとなでしこはどこに隠れただろうか。先をいったみんなは戦い続けて、外に出ることは出来たんだろうか。考えても仕方がないのに、頭の中で考えが走ってる。
ふと声がしたと思ったたらひなげしが歌っていた。わたしの存在を忘れたようにぼんやりと宙を見ながら、きれいな声で。この地獄のような場所でそれを聞くのが嫌だった。
「ひなげし」
呼びかけるとひなげしは顔を上げた。
「いいことを教えてあげよう」
ひなげしの手を取った。
「かきつばたの作戦をしってる?」
「なあに?」
「私は心を読めるから、彼女の秘密を知っているのよ。彼女の作戦は全部を夢にする」
ひなげしは意味がわかっているのか、そもそも聞こえてるのかさえわからない。こんなどうしようもない希望を聞かせてもしょうがないのに、少しでも気を引きたくて、気を紛らわすために話がしたい。元来、話すのも人も好きだった。だけど、上手くできなくて人の心を読む魔法なんて。
「ゆめ?」
ひなげしがつぶやいた。
「そう。夢」
「わたし、外の世界を知りたかった。でも、ここが大好きだった」
操られるような棒読みでひなげしは話す。
「ひなげしは本当にここが好きなのね」彼女の手は温かみがまるでない。普段はどちらかというと子供体温だったのに、そんな思い出も、この施設でできたものだった。「私も、好きだったわ。でも、ここの施設のことじゃない。甘えたなかわいい女の子とか、強くて頑張りやな女の子とか、優しいきれいな女の子が好きだったの。違う?」
ひなげしに話しかけると、ひなげしは少しだけ微笑んだ。
「ねぇ、わたし、使えそうな魔法があるの、夢見る魔法。使っていい?」
それはもう本当に、終わりってことだろう。ひなげしの手をつかんでいた自分の手が震える。ずっと自分は覚悟してるって思っていたけども。
「いいわ。大丈夫、一緒に眠りましょう。次、目が覚めたら、もう一度、みんなで遊びましょう」
「うん、そうしよ」
ひなげしは最期に極上な笑顔をみせて、私とひなげしは一緒に目を閉じた。
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